自然卵養鶏法

本書は、持続可能な循環型農業として、小羽数平飼い自給養鶏の自然卵養鶏法について詳しく説明しています。

著者の中島正さんは、ご自身の信念を元に養鶏を商売という観点からだけではなく、社会全体、そして自然のバランスを考慮した上での飼育手法を提唱されたという点で非常に特徴的だと思います。本書の価値が時間経過によって色あせることはないでしょう。

中島さんは、養鶏を通して個人と社会全体の自立を促しています。本書の序から引用させていただきます。

「このとき自然循環型農業の一環として小羽数平飼い自給養鶏を取り入れるならば、いかなる事態に直面しようとも、大自然の続く限りそれは悠久の自立が可能である。」

現代では個人も国家も一人立ちはできません。深い相互依存の関係になっています。しかし、それは余所が何らかの間違いを起こせば、自らも必然的に影響を受けるということを意味します。それで本当に良いのか、本書では読者にそれを問うています。

次に「自然卵」がどういう卵か曖昧でわかりづらいと思いますので、その定義を本書から引用させていただきます。

「自然卵とは、自然の恵みを充分鶏に与え、薬剤不要の健全な母鶏から生まれる卵をいう。自然の恵みとは、空気、日光、水、大地、緑草のことである。これらの自然の恵みを与える飼育管理法として、次の自然卵10の条件に集約される。」

1.平飼い
2.開放
3.小羽数
4.薄飼い
5.粗飼料
6.自家配
7.自家労力
8.低成長育成
9.腹八分給餌
10.八分目産卵

家のニワトリの環境

家のニワトリ達も可能な限り上記の条件を満たすような形で飼育されています。(詳しい理論や方法は本書を参照してください。)

鶏舎の地面はコンクリートではなく土間による平飼いですし、周囲は金網で囲われているので空気の流れも問題ありません(開放)。それに小羽数で薄飼いです。

粗飼料は本書でノコクズ発酵飼料を薦めていますが、私は代わりに繊維ができるだけ豊富な緑餌を与えています。トウモロコシなどの濃厚飼料は購入して与えていますが、そこに野菜を混ぜて与えていますから、自家配で自家労力と言えると思います。

低成長育成と腹八分給餌に関しては、私の場合ちょっと難しい部分があります。なぜなら、腹八分の分量の餌を与えると、ニワトリは空腹を訴えるために騒ぐからです。近所迷惑この上ないので、できるだけ食べたい分だけ食べさせるようにしています。その結果、嫌いな餌をいつも残す習慣がついてしまいました。この習慣を直すためには、断食などが必要なのですが、そんなことしたらまた空腹で騒ぎ続けるのでやりません。

八分目産卵に関してはあまり気にしていません。頻繁に卵を産む鶏もいれば、あまり産まないニワトリもいます。別に商売でやっているわけではないので、ニワトリの好きなように産ませています。

結局3羽しか飼っていないので、やれることには限界があります。発酵飼料をエサとして与えることは重要なことだと思うんですが、手間を考えると難しいです。

人も納豆やヨーグルトなど発酵食品を普通に食べていますので、ニワトリの健康にも発酵飼料が重要なことは理解できます。しかし、発酵飼料を与える目的はそれだけでなく、おいしい卵を作る際にも重要な役割をするみたいです。発酵飼料を与えていない家の卵がタンパクで別段特徴的な味がしないのも当然だと思います。

ここからは、各章の説明と感想に入ります。

第1章:農家養鶏のすすめ

まずは、なぜ小羽数平飼いの自然卵に拘るかの説明から入ります。未利用資源の活用、自然循環、薬剤の無使用など社会全体の観点から自然卵養鶏の必要性について語られています。

ここでは他に、どのような人が自然卵を求めて、どのように周囲に広め、流通ルートに乗せるのかのアドバイスがあります。チラシの書き方も事例として載せてあります。要は口コミで顧客を広げるということなんですが、現代ではその口コミもステルスマーケティングなどの商売の手法の一つとして使われていますので、有効性には多少疑問があります。さらに昨今はエコブームもあり、企業で大量生産されている卵も安全性を重視して、自然食的な雰囲気を売りにしています。中々差別化は難しいと私は感じます。

第2章:農家養鶏の基本

ケージで大量飼育される企業養鶏と農家養鶏の違いを自然、経営の観点から比較しています。その中で、議論が社会全体にも及んでいます。合理化や大量生産大量消費社会の問題点を明らかにし、その克服法として「拡大」とは逆の方向の「縮小」にあると提案されています。これは基本的に同意するんですが、世の中が「縮小」方向に向かえばまた別の問題が浮上すると考えるのですが、どうなんでしょうか?

他にニワトリ飼育の際、空気、日光、大地、水、緑餌がいかに大事であるか丁寧に説明されています。家のニワトリ達が自由気ままに日光浴したり砂浴びをしているのを見ると、その重要性を実感できます。それに野菜はニワトリの心身の健康維持に必要不可欠です。今では野菜なしの濃厚飼料だけを与えると、ニワトリは明らかに不満そうに騒ぎ始めます。とうもろこしなどは残すことが多いですが、野菜は綺麗に平らげますから、ニワトリが本当は何を欲しているかがわかります。

第3章:有機栽培と農業人口論

鶏糞を利用した有機栽培と、著者なりの今後の農業の行く末について意見を述べています。実際私も、鶏糞は肥料として畑に撒いています。もうちょっとニワトリを増やせればもっと多量の鶏糞が手に入るのですが、理想を言えばきりがないので現状で我慢します。

第4章:鶏の食性とエサ

ニワトリの食性とエサについての説明があります。ただし、本書で出てくるノコクズ発酵飼料を実際作ろうとしましたが、うまくいきませんでした。他にニワトリのつつき問題について、人間の自分勝手な都合で嘴を切ったりするやり方に著者は憤りと注意を促しています。ニワトリが他のニワトリをつついて傷だらけにしたり、酷い時には殺してしまうのは、ストレスが大きな原因だと信じているからです。

コストなど人の都合でニワトリを狭いケージに押し込めて育てたり、卵を産むためだけに調合された濃厚飼料ばかり与えられていたら、彼らにストレスが溜まってもおかしいとは思いません。つつき問題は人に原因がある可能性が高いのに、いかにもニワトリが悪いかのように嘴を切るのはやり過ぎだという事です。

第5章:平飼い用の鶏種と卵質のよしあし

平飼い用のニワトリとして、どの種が適切かを説明しています。私たちが普段想像するニワトリは白が多いと思いますが、白いレグホーンなどはケージ養鶏向きに作られた品種なので、平飼いには向かないという説明が詳しくされています。この場合、赤玉のニワトリがストレスに強く適切だという事です。後、良質の卵の条件も語られています。

第6章:鶏の育成法

ニワトリの詳しい育成法が載っています。私の場合は中雛のひよこを購入して育てたので、そこから先の育成法が非常に参考になりました。ただし、ここで説明されている方法は養鶏業として本格的に行う方を対象にしていますので、個人でニワトリを飼う場合は後半の第10章も読んだり、間違いを起こしたくなければ他のいくつかの書籍を参考にして総合的に判断された方が良いと思います。私はニワトリを飼い始める前に、複数の書籍をまず読んで、自分の頭の中でニワトリ飼育の全体像が出来てから鶏舎の設計を始めました。

私がひよこ(中雛から)を育てて感じたのは、小さなひよこの時期はひ弱だから特に気を付けて育てる必要があるということです。寒さに弱いですし、簡単に病気にかかったりします。大雛にまで大きく育てば、基本ニワトリは頑丈ですからよっぽど運が悪くない限り大丈夫でしょう。

第7章:「自然卵」の上手な産ませ方

卵の産ませ方について書いてあります。個人で自給目的でしたら、点灯したり強制換羽をして産卵の頻度をコントロールする必要もないでしょうから気にしなくても良いと思います。このような行為はニワトリに余計なストレスを与えることになりかねませんし、養鶏に深入りするつもりがないなら人間の手はあまり加えないで手軽に育てた方が良いと思います。

第8章:廃鶏の淘汰

ニワトリの淘汰に関しての説明です。病気になったり卵墜や尻つつきが発生すれば、淘汰を考える必要が出てくると思います。私はまだそのような経験はありませんが、いずれは必要になるでしょう。生業として養鶏を営むことを考えている方には、淘汰は重要だと思います。ニワトリは一日中食べていますから食費だけでも馬鹿になりません。

第9章:平飼い鶏舎のつくり方

鶏舎や産卵箱を作る際に非常に参考になりました。

第10章:自家用養鶏を始めよう

私のように自家用目的で数羽程度飼う人に役立つと思います。

増補部分
本書では、新たに次の項目が補足されています。

増補:自然卵養鶏法の再確認

本文の内容では誤解を与えたり、近年は自然卵と誤解を受けかねない卵が市場に増えてきたために、補足をしたのだと思います。

増補:飼料と給与方法をめぐって

なぜ発酵飼料が重要なのかなどが書かれています。他に小石の重要性や冬の緑餌用サイロの作り方が語られています。私も小石に関しては、定期的に与えるようにしています。

増補:育すう、飼い方、病気、消毒

飼育は無消毒でも問題ないことや、雛の育て方についてのコツを書いています。鶏糞による健康診断は実際参考になりました。以前雛が緑色の糞をしたので、すぐ病気だと判断できました。

増補:販売、経営など

就農者が自然卵養鶏を考えている際に、卵の値段の考え方や設定方法について説明されています。

まとめ:

ニワトリの飼育に興味のある人だったら誰でも本書をお勧めするのですが、他にニワトリには興味がなくても現代社会にいろんな違和感や矛盾を感じている方にもお勧めできると思います。

非常に細かな養鶏ノウハウを語られているので、養鶏家として就農を考えている方にも参考になると思います。ただし、本書は随分昔に執筆されていますので若干現在の状況とは異なると感じられる部分もあります。近年出版された書籍も何冊かあるので、そちらを併読することもお勧めします。

補足:

ニワトリを飼うのに必ずしも中島さんのような考えが必要なわけではありません。ちゃんと命に対して責任を持ち、周囲に迷惑をかけないならば、気軽にかわいいペットとして飼っても良いと思います。よろずの場合は、家畜というよりはペットに近いかもしれません。

商売として自然卵養鶏に興味を持っている方にとっても、お客の探し方や、卵の販売価格の目安、利益の計算の仕方などが書いてあり参考になると思います。しかし、本書で書かれている見積りは数十年前の日本が前提になっていますから当時の社会状況を差し引いてお考えください。

後、よろずは本書を2011年後半に読みました。若干内容に記憶違いがあってもご了承ください。

おわり

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