発酵利用の自然養鶏

著者の笹村さんは一言で言うとすごい人だと思います。よろずが元々理想としていた生き方を実際に実践されています。

タイトル通り自然に則した発酵中心の養鶏を営むプロセスが書かれています。

本書では詳しく説明されていませんが、笹村さんは養鶏の他にもお米や野菜を栽培されています。自分で山を整地したこともありますし、自給生活用の小さな家をお仲間と一緒に建てられたこともあります。

それら全体の活動をお知りになりたい方は、笹村さんのブログ「地場・旬・自給」をチェックしてみてください。お忙しい中、相当な文章量の記事をほぼ毎日のように更新されています。

本書は養鶏を本気で取り組みたい方にお勧めです。哲学的なことも含めて経験やノウハウを詳しく説明されています。

以降、章別に感想を書いていきます。

第1章:発酵利用自然養鶏のすすめ

この章では発酵の考えを中心としてニワトリとの接し方、社会とのつながり方など総合的に自然養鶏とは何かを語られています。

著者は養鶏をするのに一つの資格が必要だといっています。それは、「ニワトリが好きだ」ということです。この点はよろずもニワトリが好きなので、合格していると思っています。ニワトリから教わることが多いとおっしゃっていますが、その通りだと感じます。

私の記事「自然の法則と宇宙の法則-人生の意味についても考察」もニワトリを飼っている最中に思いついたことです。ニワトリを飼うことで、養鶏に関することをたくさん学べると同時に、それ以外の分野でも学べる可能性があることに気づきました。

本書で「いろいろ多様な発酵ほど自然に近づける」と書かれていますが、確かにニワトリの食べるエサが特定の微生物だけで発酵処理されていては、自然の食べ物とは言い難いかもしれません。人間で言えば、毎日納豆やヨーグルトだけを食べるようなものです。私は納豆もヨーグルトも好きですが、毎日それだけ食べたいとは思いません。多様な発酵が必要だといわれる理屈もわかります。

さらにニワトリに与える水にまで微生物を利用するお考えには恐れ入りました。言われて見ると、うちのニワトリも糞混じりの水を好んで飲んでいるような感じがします。最初は糞で汚染された飲み水を清浄な水に交換していたのですが、別に交換しなくても元気でピンピンしていますから今はそれほど気にしないことにしています。

それと、この章で笹村さんは「いい卵」の定義について語られているんですが、そのお話には考えさせられるものがありました。

商売として考えれば、自らの生活のためにも「おいしい卵」を作る必要があります。現代ではおいしい卵とは濃厚な味のことを言うことが多いです。

一方、著者はいいヒナがとれる卵を「いい卵」としています。自然の観点から見れば、生命力の強い卵こそ価値があるという意見に納得できます。世間が求める「おいしい卵」と自然が求める「いい卵」にズレがあるのは、しょうがない部分もあるのかもしれませんが、難しい問題だと感じました。

第2章:発酵床鶏舎のつくり方

まず良い鶏舎の条件や環境のお話から始まります。近い将来自然養鶏に携わる予定の方は、鶏舎を建てる場所の選定がご自身の将来の生活に大きく影響してくると思うので、重要な項目となると思います。

例えばいくら自然豊かな田舎でも、果樹園の近くは好ましくないというのは、結構見落としがちな点だと感じます。それに卵の販売を考えると、都市近郊が良いというのは納得できます。畑もそうですが、養鶏でも適した場所を見つけるのが一番難しそうです。

床づくりの項目は、さすがにご自身スコップ1本で山の斜面を整地しただけあって説明が詳しいです。人力では一日一坪が作業の目安のようです。よろずも理想を言えば、自分で山を切り開いて自給のための生活の場を作ってみたいです。

鶏舎づくりの内容も、100羽単位でニワトリを飼われる方には非常に参考になると思います。鶏舎やその周りを電気柵で囲うというのは、養鶏関連の書籍に限定すれば、本書でしか書いていない内容に思われます。ただし、ニワトリを鶏舎内で飼うだけなら柵を立てたりする必要はないかもしれません。

自然が豊かな場所であれば当然、いろんな動物がニワトリを狙って出没するでしょうから対策を取って当然だと思います。一夜にしてニワトリが全滅なんてこともよく聞く話です。ここ石巻でもちょっと山の中に入るとシカやイノシシっぽい動物と出会ったり、ハクビシンが畑に出没することもありますから、市街地に近いからと油断はできません。

後、本章では雨水を利用した飲み水の設備のつくり方に関して、興味を持って読ませていただきました。応用すれば非常時の飲み水に使えるかもしれませんし、そうでなくても近くに水道設備がない僻地に住んだ時に参考になるかもしれません。もちろん、本書に書かれているのはあくまでニワトリ用の飲み水ですから、そのまま人が飲めるわけではありません。

人が飲めるような水の浄化については、中本信忠さんが書かれた「おいしい水のつくり方」に出てくる、緩速ろ過技術が使えると私は考えています。

注:よろずは別に田舎や僻地に住むことを考えているわけではなく、将来のあらゆる可能性を考えた上で話しています。東日本大震災後の私の教訓は、安定した約束された生活などこの世のどこにも存在しないという事です。

後、集卵がしやすい効率的な産卵箱のデザインもイラスト付きで書かれているので、非常に参考になるでしょう。

第3章:飼料のつくり方と給与法

最初には、なぜ笹村さんが発酵飼料に拘り始めたかの経緯が語られています。

次に乳酸による嫌気性発酵の飼料のつくり方が書かれています。私はオカラの乳酸発酵サイレージを実際作ってみようと挑戦してみたのですが、失敗してしまいました。結構な量のオカラを使用したので、失敗した時のショックも大きかったです。ポリバケツを開けた時に、カビが生えていて粘土の匂いがしました。

失敗した理由がはっきり言ってわかりません。米ぬかが足りなかったのかもしれませんし、米ぬかとオカラの混ぜ具合が足りなかったのかもしれません。そもそも、素人が冬場の寒い時期に発酵飼料を作ろうとしたのがそもそもの間違いだったのかもしれません。

後、米ぬかによる好気性発酵の飼料のつくり方が書かれています。米ぬかの発酵は水を適量加えて混ぜれば、比較的簡単に発熱しながら発酵します。その後に残菜などを混ぜれば出来ると思います。

注:発酵は非常に微妙なものですから、飼料を作る現場を一度お願いして見せてもらった方が間違いは少ないと思います。

緑餌としてかぼちゃ、さつまいもが有効とも書かれているので、今年はそれらの野菜がうまくできたらニワトリに与えてみようと思います。

第4章:毎日の管理のやり方

養鶏家として一日に要する時間は二時間が基本という事です。うちは鶏舎に3羽しかいない家庭養鶏ですし、緑餌はたくさん与えていますが発酵飼料は全く与えていませんから、一日に15分以内で済みます。たまにニワトリと戯れるために、1時間くらい鶏舎の中に引きこもっていることはありますけど。

この章で個人的に気になったのが、卵で判別するニワトリの健康状態です。うちの一羽のニワトリも、いびつな形の卵をよく産んだりします。ですから、どこか身体に異常があるのかもしれません。見た限り皆元気に見えるので、どれがいびつな卵を産んだニワトリなのかさっぱりわかりませんが。

後、引退した鶏のさばき方が勉強になります。今は元気でもいずれは卵を産まなくなりますから、その時は肉として食べることになると思います。

第5章:ヒナを自給し、自分のニワトリをつくる

ヒナの自給について語られているのは、養鶏の本としてはめずらしいと感じました。確かに養鶏に拘るのであれば、卵の質だけでなく鶏種にも拘るというのは考え方の一つとしてあり得ると思いました。オリジナルの鶏を生み出せば、ブランド化で販売にも有利に働く可能性があります。

しかし、同じ自然卵養鶏の中島さんの書籍には、ヒナの自給について手間がかかるからしない方がよいと書かれています。個人的には、どちらも一理あると思います。

いずれにせよヒナを自給するにはオスが必要ですから、隣家が近くにある場合は騒音問題で難しいと思います。

第6章:販売と経営

最初の方でご自身のことを商売べたの口下手だと語られています。だったら農業をあきらめればいいという発想は面白いと思いました。本章でも述べられていますが、販売で苦労なされたことがよくわかります。私も含めて実直な人は基本的にセールスには向いていません。

「農」は好きだけど「業」はいらないという考えは、同意できる部分があります。野菜が不作の時は高値で取引され、逆に豊作の時には安く買い叩かれるのは、市場原理主義のテーブル上で食料が取引されるからです。さらに豊作の時には生産調整という名の下、野菜が捨てられたりトラクターで潰されたりします。でも農家の方もお金を稼いで生活していかなくてはいけませんから、いくらもったいないと言った所で生産調整をするより他に仕方がありません。

実に不条理な面が世の中には存在しています。そんな「業」に縛られずに農で生きていけるならそれに越したことはないと思います。ただし、生命が通っていない工業製品等は需要と供給の関係で取引しても別に問題ないと私は思っています。

笹村さんは、養鶏を小さくやって米や野菜と組み合わせる生活スタイルを提案されています。これは中島正さんの「自給農業のはじめ方」と通じるものがあります。

最後の方で、

「結局、一般消費者の好きなものは『本物に似せたニセモノ』だからです。消費者ではなく、ともに生きている仲間として、物々交換の新しい形としての流通を作っていくしかないというのが私の考えです。」

とおっしゃっています。生産者や消費者という関係ではなく、ともに生きていく仲間として流通を作っていくという考えは、納得する部分がありました。

まとめ:

養鶏の手法や人生哲学は元より、発酵の重要性を非常に事細かく説明している本書は、特に本格的に商売として養鶏業に就きたい方にとってバイブルとなると思います。

もちろん私のように小規模の家庭養鶏を行いたい方でも、第6章にある「家庭養鶏のすすめ」や、それ以外でも本文中で参考になる部分はたくさんありました。手間を考えると実際どこまで発酵を養鶏に取り入れるかは、人それぞれだと思いますが、知識として知っておいても良いと思います。

本書の初版は2004年ですので、今では著者も補足したいことなどがあるかもしれません。現在ブログを精力的に更新中ですので、最新情報も知りたい方は、本書と一緒にそちらをチェックされても良いと思います。

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