(前編)コロナウイルス(COVID-19)のワクチン開発に参入すべきか、戦略コンサルタントが考察してみた

皆さま、こんにちは!

今回は、コロナの問題が起きた時、ある製薬会社がワクチン開発に参加すべきかどうかを、戦略コンサルタントに相談した、という設定で考えていきたいと思います。

ここではどのようなステップで、どんな要素を考慮すべきか、全体像をカバーする形で進めていきます。

それでは始めます。

1. 定義の確認

第6回:コロナのワクチン開発をすべきかどうかに関する定義の確認

まず、いきなり考察に入る前に、今回のコロナワクチン開発における定義をします。

今回は、パンデミックという世界規模の問題なので、一企業の利潤を追求したビジネス戦略を超えて、政治や経済も含めたマクロ環境を考慮して考えていきます。

ワクチンの開発期限は2年以内とします。

どのような基準でクライアント企業は参入の可否を決定するかというと、経営のリソース、つまり人・物・金・情報の許容範囲内において、実行可能である事、かつ成功率が○○%以上確保できそうなら、プロジェクトチームを立ち上げるというお話があったとします。

ただし、今回の動画は、参入の際に検討すべきプロセスと、意思決定の判断をする際の論点のみに言及します。

以上の定義より、課題は「コロナウイルスのワクチン開発に参入すべきかどうかについて、どのようなプロセスで考え、論点を洗い出せば良いか?」とします。

条件として、2年以内に開発できる見込みがある事と、マクロ環境を考慮する必要があります。

2. ビジネス数値分析による、市場規模の推定

最初に、ワクチン開発により利益を生み出すことが目的なので、ビジネスの数値分析から行います。

第6回:ワクチン開発におけるビジネス数値分析

売上と費用に分けて、どちらから見ていくのが妥当かと言うと、今回は売上から見ていきます。

ワクチン開発は新規事業となるので、まずはどれだけの市場規模があるのか、いくら売上が見込めそうかは早めに知りたいと感じるからです。

まずは、市場規模の推定から行います。

世界の人口は80億人です。その中の20億人が正規のワクチンを接種できると仮定します。

仮にワクチン一つ当たり1万円で、一人当たり3回接種するとなると、20億人かける1万円かける3回で、60兆円になります。

この市場規模が、大きいか小さいかは判断が分かれそうですが、少なくとも金額的に莫大な事は分かりました。

現時点での市場規模推定はこれだけで十分です。

次に、その市場の中で、クライアント企業がどれだけの売上を見込めるかについて考えてみたいのですが、そのためにはもっといろいろな情報が必要となります。

3. 売上状況の確認

まずは、現在の売上状況について確認しました。

第6回:製薬企業が販売している3つの製品

3つの製品があり、製品Aは売上が○円で、前期からあまり変わっていませんでした。製品Bは売上が△円で、前期より増えています。そして製品Cは売上が□円で、前期より減っています。

次に、将来のクライアント企業のワクチン売上を推定するためには、そのワクチンの開発成功が大前提になります。

ここで、そもそもワクチン開発は現状実行可能なのでしょうか、可能なら、開発の成功確率はどれくらいなのでしょうか。

それを知るためには、費用も知っておく必要がありますので、売上分析をここまでとし、費用分析に移ります。

4. 費用の分析

第6回:ワクチン開発においてかかってくる費用

ワクチン開発において、どのような費用がかかってくるかと言うと、人件費・設備や機器代・土地や建物代・在庫の維持費のほか、臨床試験にかかる費用などでしょうか。

そして、それぞれの費用と傾向を確認していきます。

この中では、人件費と臨床試験の費用が大きいという事が分かりました。でも、いずれの費用項目も、前期と比べると変化はしていないようです。

第6回:費用分析 人件費と臨床試験のコストが大きい

念のため、クライアントに対し、ワクチン開発に必要な費用項目が全てカバーできているかどうかを確認しておきます。

5. 余談:大局観を持つ、戦略コンサルタントの価値

長いので、ここで余談を入れます。

戦略コンサルタントの最大の価値は、第3者の総合家(ジェネラリスト)として、正しい方向と思われる解決策を提案する事にあります。

ある分野の専門家としてアドバイスする事ではありません。

なので、例えばどういうコスト構成となっているか分からなければ、自分はこう考えていると伝えた上で、確認のためにクライアントに聞いてみても私は構わないと思います。

分かったふりをして何も聞かないよりははるかにましです。

戦略コンサルタントは、大局的視野を持つ戦略家として、論理思考や洞察するための訓練を受けています。

何かの分野に特化するのは、場合によって弱みとなるので、自分は気を付けるようにしています。

6. ビジネス環境分析

話を本題に戻します。

次に、クライアント企業でワクチン開発を行えるかどうか、そして実行可能なら、どれくらいの確率で成功するかの背景情報を把握するために、ビジネスの環境分析に移ります。

マクロ環境

第6回:ビジネス環境分析、マクロ環境:政治

まずは、事業戦略において今一番考えなくてはならないのは、市場でもライバル企業でもなく、マクロ環境です。

これはコロナ以前では考えられなかった事で、大きな視点での分析が必要不可欠になっている事を示唆しています。

まず政治の分野で考えてみると、コロナの問題は国家戦略にも関わってくるので、ワクチン開発のための国の助成金や、ワクチンの買い上げなども、積極的に話し合われているものと思われます。

また、ワクチンの副作用については、一度起きると本来厳しい責任追及が行われますが、今回のような非常事態ですと、あまり製薬会社に責任が及ばないよう、法律の改正もありえます。

第6回:ビジネス環境分析、マクロ環境:経済

次に経済に目を向けると、グローバル経済からブロック経済に移行していくことが予想されます。それがどのように製薬事業に影響を与えるかは不透明ですが、一応考慮しておいた方が良さそうです。

それと、国民の購買力が全体で低下している事は気になります。仮に多額の費用を投じて開発に成功し、大量に生産しても、ちゃんと買ってくれるのか、という不安が残るからです。

例えば、マスクも一時は価格が高騰し、多くの事業者がマスク製造に参入しましたが、今ではほとんどが赤字と聞きます。ワクチンも同様の状況になる可能性はゼロではありません。

第6回:ビジネス環境分析、マクロ環境:社会・文化

そして社会全体に目を向けると、外出自粛により人の移動が少なくなっています。したがって、ワクチンが完成する前にパンデミックが収束する可能性もあります。

また、急いで作られたワクチンに対し、安全性に疑問を持つ層が出てくる事も予想され、そうなると、当初期待されていた需要に届かず、供給過剰になる事も考えられます。

第6回:ビジネス環境分析、マクロ環境:テクノロジー

技術的な面を見ると、世界的に開発競争が起きており、より効果的かつ効率的な医療品や医療機器が今後出てきそうです。

その時に、クライアント企業はどのように対応するのか、シミュレーションしておいた方が良さそうです。他国では、国家戦略の一つとして動いている所もあるので、企業単位でバラバラに考えるのは、得策ではないと考えます。

7. まとめ

今回はここまでとします。

本記事では、コロナウイルスのワクチン開発における、定義を確認し、ビジネスの数値分析とマクロ環境分析から、思考プロセスや考慮すべき要素を説明しました。

今回のトピックのように、将来の不確定要素が大きいビジネスほど、戦略コンサルタントの出番となります。

既存の問題解決だけでなく、新たなビジネスの創造を手助けするのが使命です。

次回は、数値分析では見えてこない部分をさらに考えるため、引き続き環境分析から始めます。

お楽しみに