日本の現状と目指すべき道 下

「日本の現状と目指すべき道 上」から続く

2-3.水資源の確保の問題

水資源の確保に関しては、今後日本のみならず世界中を巻き込んだ争いに発展すると思われます。日本でも外資が日本の山林を買い占めているというニュースを時折目にしたことはないでしょうか?それは、山林そのものよりも水資源の確保に目的があると思われます。

また、原発事故により、大量の汚染水が地下水や海に流れ出ている現状を見ますと、本来水資源が豊富なはずの日本も長期的に見るとどうなるかわからない危うさがあります。

水は別名「ブルーダイヤ」とも呼ばれており、今後世界中で水を奪い合う競争が激しくなると思われますので、日本は本気で水資源を守るためのあらゆる対策を考えるべきだと思います。水が生命の源であることを考えると、金やダイヤよりよっぽど価値があるはずです。豊富に手に入るから価値がなく、希少だから価値があるという需要と供給の固定観念から脱却しなくてはいけません。

そもそも、共有財産である水をなぜ一企業や個人が独占できるのか理解に苦しむ面があります。現在でも、当たり前のように一般人はガソリンと同等のお金を支払って水を購入して飲んでいますが、おかしくないでしょうか?

水でさえお金を出して購入する位ですから、今後空気の汚染がひどくなったら、新鮮な空気もお金を出さないと買えなくなるかもしれませんね。人はそのような世界を望んでいるんでしょうか?次から次へとお金儲けの種を探してくるんですから、いずれ空気だって取引の対象になるでしょう。

空に浮かぶ星々の輝きも人類共通の財産と呼べるかもしれませんが、大気が汚れればその輝きすら見えなくなってしまいます。人の心も同じです。人類は本当に大事なものを見失ってしまっているんじゃないでしょうか。

2-4.飢餓の問題

すでに2-2の「食料の問題」で食べ物に関するお話はしましたが、ここでは特に飢餓のお話をしたいと思います。個人的には深刻に受け止めている事案です。日本人は戦後の高度成長で食に困らない裕福な生活をしてきたため、想像がしにくいかもしれませんが、日本の歴史を見ると度々飢饉に陥っています。

飢饉』という書物を読んで驚いたんですが、私の住んでいる石巻でも過去に飢えで多くの人が亡くなったそうで、至る所に弔いのための碑が建てられているそうです。過去そのような経緯が地元の石巻であったことを知っている人は、お年寄りでも少ないのではないかと思います。

飢饉というと、例えば東北ですと冷害による自然現象が主な原因だと考えがちですが、必ずしもそれだけではありません。政(まつりごと)を行う武士がちゃんと対策を取っていれば、何万人もの百姓や町人が死なずに済んでいた場合もあります。

汗水たらして百姓が作った米を、侍が江戸や大坂の大商人に売って(回米)儲けていたという事実を読むと、怒りを覚えてきました。なぜ大塩平八郎が自分の私財を投げ打って貧民救済しようとしたのか、そしてなぜ幕府に対して乱を起こしたのかも、その経緯や心情が今はよくわかります。

米を作っている張本人の百姓がなぜ飢え死にしなくてはいけなかったんでしょうか?真っ先に死ぬべきは、自分で食料を生産していない武士のはずです。そういう意味で、江戸時代に「絶対平等主義」や「万人直耕」を主張した安藤昌益の思想にも共感できる部分があります。

封建主義まっただ中の世で、「士農工商」の階級社会を無視して万人平等を唱えた安藤昌益が、よく罪に問われず無事でいられたものだと不思議に思います。彼の言に社会的影響力がなかった所を見ると、周囲からはただの「狂者」に思われたのかもしれませんね。

注釈:
「狂者」とは否定的な意味も当然含んでいますが、孔子・孟子・王陽明によると、理想のあくなき追求者のことであり、自分で良いと思ったことを何のこだわりもなく自由に行う人のことを言います。『論語』『孟子』では、「中道(中庸)」を得た人が最高で、「狂者」は二番目の人としています。ですから、決して悪い意味ではありません。また、「狂者」とは、伴蒿蹊(ばんこうけい)の言う『奇人(畸人)』の事であり、コリン・ウィルソンの言う『アウトサイダー』の事でもあります。

私が「士道」と「百姓」の精神の復活を掲げているのは、決してこのような頽廃した武士道や弱い百姓の精神を受け継ぐためではありません。過ちを正した上での、現代・近代に通じる「士道」であり「百姓」です。

水は今のところ日本で十分確保できていますから問題ないですが、他のページでも書いているように食糧に関しては本気で『自給自足』と『地産地消』を考えるべきだと思います。

また、今後の医療に関しても、同じ問題を抱えていますので同様の対処が必要なのではと考えます。

他に、日本の食糧問題を考える上で、国際的視野での飢餓問題も知っておいた方が良いでしょう。キューバの英雄、「チェ・ゲバラ」はアメリカを異常に敵対視していましたが、それにもちゃんと理由があります。詳細を知れば、正義は決して一方のみに存在するのではないことがわかるはずです。

以前、『エクスペンダブルズ』という映画を見たのですが、南米をモチーフにしたような国家が出てきて、そこでは独裁者の将軍とその圧政に苦しんでいる民衆、そしてその独裁者を裏で操っている白人(アメリカ人)という映画にはよくある典型的な世界のお話でした。

ですから、最初は特に気にもせずアクションシーンが面白かった位の印象しかなかったんですが、後に『チェ・ゲバラ伝』を読んでから気になることがあって、もう一度その映画を見てみると、将軍を裏で操っていた白人という設定が、まさに南米でも過去に起きていたんだということが分かったんです。チェ・ゲバラはそのような現状を憂いて革命を起こしたんだと、お話の裏設定が読み取れました。

なぜ、第3国の主要輸出農産物は、砂糖だったり、コーヒー豆だったり、カカオだったり国によって生産物がそれぞれ異なるのかご存知でしょうか?欧米が発展途上国の土地を買い占め、大規模農場(プランテーション)を作り、単一農作物を現地人に作らせるんですが、それは単に労働単価が低いからだけではありません。

他に発展途上の国々を自立させたくないという思惑もあります。ですから、例えば砂糖やコーヒー豆を大量に作っている国なのに、トウモロコシや豆を輸入している国が世界にはたくさんあります。どこの国だって、わざわざ値段が変動しやすい砂糖やコーヒー豆を外国に売って、その売却益で他の食べ物を余所から購入するよりは、自分たちの国で必要な食べ物が確実に手に入るように、一通りの作物を自給自足したいと思うのが当然です。

しかし、欧米先進国は彼らの自給自足を許しませんでした。食料の自給により、政治的・経済的に独立させたくなかったからです。またこの論理は、ある意味日本でも同様の事が個人に対して行われています。大半の人にとって生まれた頃から慣れ親しんだ社会ルールですから、常識として疑問に思う人が少ないだけです。

世の中は善意だけで動いているわけではありません。というか悪意の方が多いような気がします。誰かが儲けるためには誰かには損をしてもらわないと世界が回りません。

キューバが自給自足を通して、現在「都市農業先進国」と呼ばれているのも、過去に苦い経験をしているからです。決してお金そのものを否定するわけではありませんが、現在の際限のない資本主義構造では皆が幸福にならないのはわかっていますし、絶対戦争もなくならないので、それに見合った覚悟(他人を犠牲にする覚悟と自分もその犠牲になる覚悟)も必要となります。

一方で、私は今のお年寄りには感謝しています。なぜならば、戦後日本が経済大国になるほど復興を頑張らなかったら、今頃は欧米諸国に管理された貧しい農業国家に成り下がっていた可能性があるからです。日本を完全に欧米の支配下にさせなかったお年寄りの努力には感謝しています。ただし、それが行き過ぎて金儲け主義に走ったのはいただけませんけど。

グローバルな飢餓問題に関しては、書物『世界の半分が飢えるのはなぜ?』もお勧めします。お子さんにもわかりやすいように書かれているため、読みやすいと思います。

世界の飢餓問題を解決するためには、よくテレビでやっているようなアフリカの子供たちばかり支援しても仕方がありません。もちろん、すぐにでも助けを必要としている人達もたくさんいるわけですから、それらの支援の必要性を否定はしませんが、子供たちを本当に幸せにしたかったら、彼らを養う現地の大人たちがまず笑顔になるような政策が行われなければいけないと思います。

飢餓の原因として、干ばつを第一に想像すると思いますが、毎年干ばつが起きているんでしょうか?私が学んだ範囲での事となりますが、自然災害が飢餓問題の根本原因ではないと感じました。もっと社会構造的な部分に問題があると思われます。多分日本も自覚はないでしょうが、一応欧米先進国の一員ですし、間接的に責任を負っているはずです。

2-5.土地活用のあり方

土地問題は結構根が深いので、何とも言いづらい面があるんですが、田んぼや畑に関してだけでも重要なことなので書いておきます。

例えば、若い人が畑で作物や野菜を作りたいと思っても、容易に土地そのものが手に入らない現実が存在します。耕作放棄地はたくさんあるのにも関わらずです。それらの土地を現在は大企業がまとめて購入しているようです。

個人で農作業を行うための農地を手に入れる場合、法律と許可の壁があるんですが、当人のやる気さえ確認できれば、条件は多少緩和してもいいんじゃないかと私は思います。

極端なことを言えば、水も含めて土地(田や畑)など人の生活を支える最も大事で必要不可欠なものは、国民全体の共有財産として国に管理してもらった方が良いような気がします。日本では非現実的な理想論に聞こえるでしょうが、現にキューバでは実現させています。

私はTPPを決して肯定はしていないんですが、外からの変化をうまく利用することで、日本が良い方向に向かってほしいと願っています。世界がたゆまず変化しているのに、特定の分野だけが変化しないことは大きな歪を生み出し良いことはありません。ただしTPPで良くも悪くもどっちにも転びそうなので、ある意味賭けでもあり日本人の行動次第だと感じています。

少なくとも土地転がしなどの金儲けに利用されるべきものではありません。金儲けがしたければ、人の生命に直接関わらないような他の商品を扱えばいいだけです。

2-6.科学技術の過信

科学技術を万能に考える傾向とその問題については、すでに当サイトで説明したことですので詳細は省きますが、このような知識は大抵『分別智』に当てはまります。「一方明むれば一方暗し」の智です。

ですが、それらを良い意味で円通(円に通じる)することによって、問題の発生を軽減化することは可能かもしれません。ですから、分別智は必ず円通するような形での知識にしなければいけませんし、同時にそれは陰陽のバランスも取れていなければいけません。

原発に例えれば、今でも高レベル放射性廃棄物の最終処分場が決定していませんが、どこに廃棄するのかも決めない内に原発を稼働させているから問題が深刻なわけで、別名「トイレのない家」と揶揄される所以です。

根本問題が解決するわけではありませんが、少なくとも原発を稼働させたかったら、どこにどうやって処分するのかをはっきり決めてから行ってほしいものです。

他にも遺伝子操作や化学薬品等の開発など、どうも円通を考慮していないような知恵が現在進行形でたくさん生み出されていますが、最終的に人類がどこに向かって歩んでいきたいのか、万人が納得できるような大元の共通の志が必要な気がします。

3.まとめ

ここでは、日本の現状とその目指すべき道について考えてみました。いろいろ考えてみると、日本は今まで多くの前借りをしながら平和や繁栄を享受してきました。その代償をこれから支払うことになるため、あまり楽しい未来が想像できないのも仕方がないことです。

しかし悲観的になる必要はないと思います。根本的な解決策については、こちらの「なぜ学問をするのか?(社会的理由)」にまとめてありますので、そちらを参照してください。

記事で引用した書物の購入先リンク